心配な犬の涙。原因となる目の疾患・病気の代表例

健康2021年6月14日by 山口大輝先生

涙やけの原因となる犬の涙。

瞳からあふれ出るほどの涙量の背景には、どんな原因が隠れているのでしょうか?

涙の原因として考えられる、犬の目の疾患・病気の代表例について、獣医師の山口先生に解説していただきました。

犬の目からは、涙が流れ出ないのが正常

犬が涙を流す原因はどこにあるのでしょうか?
まずは、犬の涙が出る仕組みを解説します。
通常、犬の涙は涙腺から分泌され、涙点と呼ばれる穴の中へ入り、鼻涙管を通って鼻に流れ出ます。

しかし、

  • 涙の生成量が増加している
  • 鼻涙管からの流出量の減少し、排出がうまくできていない

いずれかの状態になると、目から涙があふれ出ます。

瞬きをすれば、涙液は目の周辺に留まるため、涙が全くないということは起こりませんが、目の周辺にたまっている状態は異常であるといえます。

流涙症が涙やけにつながる

涙がたくさん出ている状態を医学用語では流涙症(りゅうるいしょう)といいます。あふれた涙で目の周りの被毛が茶色~黒色に変色し、WANTIMES読者のお悩みでも多い、愛犬の”涙やけ”が起こります。
先に述べたように、涙があふれ出ている状態は通常ではないので、被毛が変色するほどまで涙が出ているということは、何かの異常のサインです。

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犬の涙が出る原因①一過性のもの

ゴミなどの異物や、顔の毛が目に当たっていると、目から涙があふれ出ます。
この場合は、原因を取り除いてあげることで流涙を抑えることができます。

とくにパグやシーズー、ブルドッグなどの短頭種は、構造的に目が前に飛び出る形となってしまうため、目の周りの毛が目にあたってしまうことが多いです。

異物が入っていると、気になって足や手で目をこすり、二次的に結膜炎になってしまうことなどもあるため、犬が目をしょぼしょぼさせているなどの様子が観察できた場合は、すぐに異物が入っていないかチェックをしたり、家族で判断がつかなければ、あまり長く様子見はせず、早めに病院にいくようにしましょう。

目の周りの毛が目に当たっている場合は、カットして当たらないようにしてあげましょう。

犬の涙が出る原因②病気・疾患によるもの

次に、涙が症状として現れる病気・疾患を解説していきます。

目の構造が原因の疾患

  • 鼻涙管閉塞(びるいかんへいそく)

トイプ―ドルをはじめとして、診察する症例数が多い疾患です。

”目をしょぼつかせる”や、”目やにがある”などの症状がなく、涙が多くて涙やけをしているという症状を訴えて来院する犬は、鼻涙管閉塞の診断となることが多いです。

鼻涙管閉塞は、鼻涙管が先天的に細くなっていたり、鼻涙管の炎症により鼻涙管自体がつまってしまうことで発生します。鼻涙管閉塞によって鼻に流れるべき涙が目から溢れる状態となります。そのほかにも、腫瘍による圧迫や、重度の歯周病でも起こることがあります。

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  • 眼瞼内反(がんけんないはん)

まぶたが内側に巻き込まれ、まぶたの縁が眼球に接している状態のことです。

まつ毛が正常に生えていたとしても、まぶたの構造によりまつ毛が角膜に接触し、いわゆる”逆さまつげ”(睫毛乱生: しょうもうらんせい)の状態になり、流涙症や目やにの発生につながります。

先天的なものも、外傷などが治った後の引きつり(瘢痕:はんこん)によってまぶたの構造が変化する、後天的なものもあります。

  • 眼瞼外反(がんけんがいはん)

まぶたが外側に巻き込まれ、膜や結膜が露出している状態のことで、結膜炎や角膜炎が起こりやすくなります。

目の痛みや痒みから目を気にする動作をするようになり、流涙症や目やににつながります。

顔の皮膚にたるみのある、ブルドッグ、ラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバー、アメリカンコッカスパニエル、バーニーズマウンテンに多いです。

基本的には先天的なものが多いです。

睫毛(しょうもう)系の疾患

先天性なものや、まつ毛の生え方が原因で涙があふれ出る状態が続く事もあります。

  • 睫毛重生(しょうもうじゅうせい)

まつ毛の少し奥にある脂の分泌腺である、マイボーム腺からまつ毛が生えている状態のことです。

通常のまつ毛の、少し内側に重なるようにまつ毛が生えているイメージです。

  • 睫毛乱生(しょうもうらんせい) ※”逆さまつげ”

正常な場所に生えているまつ毛や、皮膚の被毛が,眼瞼内反(がいけんないはん)などにより本来とは違って眼球に向かっており、角膜に接触している状態のことです。

角膜炎や結膜炎、角膜の傷に繋がることがあります。

  • 異所性睫毛(いしょせいしょうもう)

一般的に上眼瞼(うわまぶた)に認められます。まぶたの裏側など、本来生えないような場所にまつ毛が生えている状態のことをいいます。

睫毛重生(しょうもうじゅうせい)と同様に、マイボーム腺から発生しますが、結膜を突き抜けて角膜に向かって生え、その刺激によって涙が出ます。

まつ毛が角膜に垂直にあたることが多いので、その際の角膜への刺激が問題となることが多いです。

高頻度で結膜炎や角膜炎を発症する犬の場合、逆さまつ毛だったり、まぶたの裏側にまつ毛が生えていたりすることがあるため、その症状にあった治療で涙の原因をとりのぞいてゆきます。

炎症系の疾患

  • 角膜炎

角膜がなんらかの原因で炎症が起きている状態のことです。慢性的な刺激や自己免疫異常、感染や外傷などが原因として挙げられ、流涙症につながったり、目の表面や白目部分が赤くなったりします。

※角膜とは、黒い瞳の表面をおおう、一番外側にある透明な膜のこと。

  • 結膜炎

結膜(ピンク色の組織)が炎症を起こし、赤く充血する病気です。犬の結膜炎には感染性と非感染性がありますが、感染性結膜炎はまれで、非感染性結膜炎が多いです。

典型的な発症の原因としては、

  • アレルギー(食べ物やハウスダスト)
  • 眼に入った刺激物(犬の毛やシャンプーなど)
  • 眼の損傷や外傷
  • 先天性異常

があります。

※結膜とは、まぶたの裏と眼球の表面を覆っている無色透明の粘膜のこと。

  • ぶどう膜炎

目の中に炎症を起こす病気の総称です。原因は感染、外傷、免疫性、腫瘍、他の眼の病気からの波及などと多岐に渡り、治り難い目の病気のひとつで、緑内障の原因にもなります。

※ぶどう膜とは、虹彩と毛様体と脈絡膜の総称のこと。

  • マイボーム腺炎(ものもらい)

まぶたの縁にあるマイボーム腺が、油成分を分泌することで涙の蒸発を防ぎ、瞼の開閉の滑りをよくしています。

マイボーム腺炎は、感染やマイボーム腺の閉塞により分泌物が溜ってしまい、炎症をおこした状態になってしまうことです。アレルギー体質の犬に発症しやすいです。

涙の縁が腫れあがり、涙が多くなります。

このほかにも、緑内障や、眼球に腫瘍ができている場合に流涙の症状が出ることもありますが、これらの病気は流涙以外が主たる症状となることが多いです。

目の病気から、全身性の疾患がみつかることも

これまで解説してきた目に関する病気・疾患は、命に直結するものは多くはないです。しかし、以下の例のように流涙が症状としてみられる目や鼻の病気がタッチポイントとなり、全身性の疾患がみつかるケースがあります。

  • ドライアイから角膜炎が発症。ドライアイの原因が分泌系疾患であった。
  • 白内障の急激な進行から、糖尿病が発覚する。
  • ぶどう膜炎から、目にリンパ腫ができていることが発覚する。

犬は言葉を発することができない分、目になんらかの異常を感じた際は、

  • 目をしょぼしょぼさせる
  • 片目だけをつむる
  • 前足で目をかく
  • 目を地面や壁こすりつける

などの行動をし、以下の兆候が出ます。

  • 涙の量が増える
  • めやにが出る
  • めやにの色がでる
  • 目が充血している

角膜炎など、発症してしまったらその後は絶対に患部に触れてはいけない疾患でも、犬は気になれば目をいじってしまい、病気・疾患の悪化につながります。

点眼治療など、診療後の家庭での継続的な治療が重要となる疾患も目には多いため、早期発見と適切な処置で重症化や二次的な病気・疾患の発症を防ぐことが重要です。

これまで解説してきたように、涙ひとつとってもその原因は様々で、複合的な要因が背景に隠れていることが多いです。普段から愛犬の行動に気を配り、気になる行動が見られる場合は、早めに獣医師の診断を受けることをおすすめします。

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記事執筆&監修:
山口大輝先生クロス動物医療センター麻布台 センター長

日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。2017年獣医師免許取得。日本獣医画像診断学会所属。座右の銘は「備えあれば憂いなし」、家族への恩返しが夢です。

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