犬の皮膚トラブルはかゆみや赤み、脱毛などさまざまな症状が見られます。不快そうにする愛犬を目の前に、家族も心配がつきませんね。この記事では、クロス動物医療センターの伊藤獣医師監修で、家族が知っておくべき主な皮膚疾患と、普段からできる予防法について解説します。
犬の皮膚病とは?
犬の皮膚病は、実際に目に見える症状が多く、また、痒がるなど普段とは違う様子が認められることもあり、最も来院数の多い分野です。疾患は、以下の4種類に大別されます。
・ノミやダニ・細菌や真菌に起因する感染性疾患
・食物アレルギー等のアレルギー疾患
・甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症といった内分泌疾患
・天疱瘡など、自己免疫疾患
スキンケアや適切な投薬で予防できるものから、一生の付き合いとなる疾患までその病態は幅広く存在します。
動物病院での受診がおすすめされる皮膚病
ここでは、数ある疾患のなかでも、動物病院での治療が推奨される9つの皮膚病について解説します。
1.膿皮症 (のうひしょう)
2.皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
3.マラセチア皮膚炎
4.疥癬(かいせん)
5.外耳炎
6.甲状腺機能低下症
7.アトピー性皮膚炎
8.ノミアレルギー性皮膚炎
9.食物アレルギー性皮膚炎
1.膿皮症 (のうひしょう)
膿皮症は、皮膚に常在するブドウ球菌という細菌により生じる疾患であり、「表面性」「表在性」「深在性」と、感染部分によって名称が異なります。皮膚の抵抗力が下がった時に発症しやすく、最も多いのは、「表在性」で無処置で問題ないものや、適切な治療をせずにいると強い痒みを誘発するものなど、いくつかの種類があります。
丘疹(きゅうしん)という赤いボツボツができ、そこに膿がたまると患部が盛り上がった膿疱(のうほう)となり、更に進行すると膿疱の辺縁のみが破れ、円形の表皮小環(ひょうひしょうかん)と呼ばれる皮疹となるのが代表的な症状です。
かかりやすい犬種:ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、ゴールデン・レトレバー、ラブラドール・レトレバーなど
2.皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
皮膚糸状菌症は、皮膚糸状菌という真菌(カビ)によって引き起こされる感染症です。感染部位はケラチンであるため、主に被毛に感染します。
感染源は菌種によって異なりますが、既に皮膚糸状菌症に感染した動物の被毛や、汚染土壌が知られています。人にも感染するため、飼い主に皮膚症状が認められることもしばしばあります。
頭部や手足の先端の皮が剥けてカサカサした状態を伴う、脱毛や切れ毛が代表的な症状です。
免疫が下がって皮膚のバリア機能が落ちたタイミングで皮膚に侵入し感染するため、若齢犬や高齢犬、免疫抑制薬を使用しているワンコや内分泌疾患などの併発があるワンコに多く認められる疾患です。
かかりやすい犬種:ヨークシャー・テリア、ジャックラッセルテリアなど
3.マラセチア皮膚炎
マラセチア性皮膚炎は、真菌(カビ)の1種であるマラセチアに関連する皮膚炎です。マラセチアは常在菌であり、普段は悪さをしませんが、皮脂が多い状態や抵抗力が落ちている際に増殖してしまい、皮膚炎を悪化させます。
マラセチア関連性皮膚炎が生じた場合には、マラセチアを減らしつつ、そもそものマラセチアが増える要因まで追求し改善させることで、再発を防ぐことが重要です。
症状は重症度によって異なりますが、紅斑、脂漏、脱毛、かゆみ等が挙げられます。
かかりやすい犬種:ダックスフンド、シー・ズー、ラブラドール・レトレバー等。
4.疥癬(かいせん)
犬疥癬は、イヌセンコウヒゼンダニが感染して起こる疾患です。虫体はワンコの皮膚の角質層にトンネルを掘り、排泄し卵を産みます。この排泄物などの代謝物でアレルギー反応が起こり、痒みが生じるのがこの疾患です。激しい痒みが特徴の疾患ですが、定期的な予防薬の使用で予防可能な疾患となっています。
紅斑(こうはん)、丘疹(きゅうしん)、鱗屑(りんせつ)と呼ばれるフケのような剥がれ落ちが主な症状です。
5.外耳炎
犬の外耳炎は、病態が複雑に絡み合う非常に難しい疾患です。症状が続くと慢性化し治りにくくなってしまうため、早期の治療が重要となります。
発症してしまった場合はPSPP分類という枠組みに基づき、要因を主因・副因・永続因子・素因に分けて整理し、治療プランを立てます。繰り返す外耳炎の症例では、アレルギー・寄生虫・異物・内分泌疾患等なのど主因が取り除けていないことが多いです。
6.甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、甲状腺で分泌されているホルモンの減少によって多様な症状があらわれる内分泌疾患です。甲状腺ホルモンには全身の代謝を活性化する機能があるため、欠乏することによって、活動性や食欲の低下が見られます。脂質の代謝機能も担うため、食欲の低下がみられるにもかかわらず、体重が増加したり、食べない割には太りやすい、といった傾向が認められるようになります。
ホルモンの減少は被毛にも影響し、脱毛が進んでネズミのしっぽのような見た目になることや、皮膚症状が高頻度で発症、または改善しにくくなります。
脱毛、ラットテイル(尾の脱毛)、再発性膿皮症などの皮膚症状、外耳炎・活動性低下・悲劇的顔貌(顔が浮腫んで表情が変わり、悲しそうな表情に見えること)、肥満等が主な症状です。
かかりやすい犬種:プードル、ダックスフンド、柴犬、シュナウザー、ゴールデンレトレバー、ラブラドール・レトレバー等
7.アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、アレルギー性皮膚炎の中で、皮膚に慢性的な痒み症状が出るもの、特に環境中のアレルゲンに反応するもの、という条件を満たすものです。
症状は主に慢性的な痒みであり、目、口、耳、腕、足先、脇、お腹等に症状が出やすいです。
免疫と皮膚バリア機能の異常が主な原因のため、免疫のコントロールと保湿などのスキンケアにより、皮膚を良い状態に保つことが重要です。近年では、免疫細胞のバランスを整えるために、腸内細菌叢(町内フローラ)に働きかける治療も選択されるようになってきています。
かかりやすい犬種:プードル、柴犬、シーズー、マルチーズ、フレンチブルドッグ、ゴールデンレトレバー、ジャックラッセルテリア、パグ、ラブラドール・レトレバー等
8.ノミアレルギー性皮膚炎
ノミアレルギー性皮膚炎は、ノミが犬に寄生し発症する疾患であり、少数でも全身にアレルギー症状を起こします。年齢に関係なく生じる疾患ですが、家庭に迎えられたばかりの子犬や、ノミ予防をしていない犬、高齢犬や免疫抑制剤での治療中の犬で発症が多いです。
腰背部の痒みが主な症状で、痒みが湿疹より先行することがあります。皮膚表面に散在するノミ糞や、動き回るノミが認められることもありますが、ノミ駆除材で治療可能、かつ予防可能な疾患です。
9.食物アレルギー性皮膚炎
食物アレルギーは、食物アレルゲンによって免疫学的反応が生じ、皮膚や消化器にトラブルを起こしてしまう疾患です。詳細なメカニズムはまだ解明されておりません。通年性の掻痒が主な症状です。
かかりやすい犬種:プードル、マルチーズ等
皮膚病を防ぐため、普段からできる対策
梅雨から秋先にかけては、雨の中のお散歩や、水遊びが増えますが、濡れた足などをタオルでごしごしこするのは皮膚を傷つけてしまうためNGです。湿気でべたつきがちな皮膚を洗いすぎてしまうのも控えましょう。皮脂には皮膚を守る機能があるのですが、洗いすぎて皮脂を落としすぎると、そのバリア機能を弱らせてしまうためです。
犬の皮膚は、人と比べて3分の1程度の厚さしかありません。そのため、普段から皮膚と被毛の状態を良好に保つことでバリア機能を保つことが大切です。行いやすい対策として、シャンプー後の保湿が挙げられます。日常のケアの中で、シャンプーの後に水分が皮膚から出ていくことにより皮膚に一定のダメージがかかりますが、保湿力の高いシャンプーやローション、クリームの使用によってそれを防ぐことが可能です。
また、被毛を柔らかいブラシでブラッシング、コーミング、入浴などで新陳代謝を整えることも有効です。良質なタンパク質など適切な栄養を食べ物から摂取することも大切です。病院での定期的な血液検査も普段から行える対策のひとつです。
適切なシャンプー、ドライング、保湿をすることが皮膚を守るための最善の対策です。多くの皮膚病は、早めに処置すれば重症化や慢性化を抑えることができますから、愛犬が気になる行動をしていたら、動物病院への早めの相談がおすすめです。
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