レオ&レアのお客様のワンコに関するしつけやお悩みについて、専門家の先生にズバり回答いただくコーナー「専門家に相談! 犬のしつけ・お悩みQ&A」。
ひとりで眠れない愛犬についてのお悩みに対し、「ひとり寝デビューのためのしつけ法」「分離不安症についての解説」の2回に渡って回答をお送りするシリーズ。
今回はかわいらしく見える愛犬の甘えん坊な行動の背景に潜む、”分離不安”という困りごとについて解説します。
【ご質問内容】
- 質問者:Elmoくんのご家族より
- 愛犬:Elmoくん(ビションプー/♂/1歳4か月)
- 内容:「ひとりで寝られるようになってほしいのですが、どうしたらよいですか?」というご相談を頂きました。昨年10月に去勢を手術してから、凄く甘えん坊になり、夜になるとわんわん大鳴き、誰かと一緒じゃないと寝なくなりました。12月に抜歯をしてから、更にヒートアップ。暗くなると、一緒に居たお部屋から出るだけでも、わんわん鳴きます。鳴くときは悲しげな表情のことが多いので(クンクン鳴きます)、抱っこしたり、撫でたりしてなだめています。トレーニングのため犬の幼稚園に通わせ、厳しく接することもしてきましたが、2021年5月現在も夜は母と一緒じゃないと眠れません。
※ひとり寝のためのしつけ法については、こちらの記事をご参考下さい。
分離不安を抱える犬が増加中
Elmoくんのように、家族が視界から外れることやその場を立つこと、外出などに過敏に反応してしまう犬は増加傾向にあります 。分離不安と呼ばれるこのようなお悩みは、子犬の早期離乳や室内生活、家族との密接な関係性など様々な理由が考えられます。
以下のような愛犬の行動、思い当たる節はありませんか?
- 家族の姿が見えなくなると、大声で鳴く
- 家族以外の人間を受け付けず、激しく警戒する
- 家族と一緒の寝具で、体をピッタリと密着させて就寝する
- 家の中でも常に家族の後をついて歩いたり、抱っこや膝に乗せてとせがむ
- 留守番中にイタズラやトイレの失敗がたびたび起こる
これまで可愛い、甘えん坊と思っていた愛犬の行動ですが、もしかしたら分離不安が原因かもしれません。
親離れ未経験と分離不安の関係
分離不安は生後1か月未満、身体機能が未発達で、自力では思うように移動もできない授乳中の子犬期に起こります。
子犬は母犬が少しでも自分から離れたことに気がつくと、大きな声で鳴いて母犬を呼び、自分の居場所を伝えようとします。
母犬は子犬が生後2,3か月を迎える頃からあえて子犬に攻撃的に接し、遠ざけ、離乳させて自立を促します。子犬はこの経験を経て心身ともに自立を果たしますが、この時期に親離れを経験しないまま新たな家族に迎えられた子犬の多くは、精神的な自立をすることなく、身体的な成長だけが進んでゆきます。
1歳、2歳と年齢を重ねても、気持ちの面ではまだまだ赤ちゃんのままで、不安や緊張を感じるとすぐに鳴き声を上げて家族を呼び、自分の居場所を伝え、寄り添って欲しいと訴えるのです。
本来であれば、新しい家族が母犬と同じ手法で子犬に自立を促すべきですが、手のひらに乗るほど小さな子犬を前に、厳しい態度で接したり、無視をして暮らすことは家族にとっても辛いでしょう。甘やかし受け入れてしまうのも当然のことです。
分離不安を事前に理解し、予防策を講じるのはなかなか難易度が高いですから、愛犬の行動や性格から思い当たる点があっても落ち込まず、前向きにこれからの暮らしに目を向けてゆきましょう。
家族の後をピッタリついて歩く!仕草はかわいくても、気持ちは不安定
分離不安を抱える犬の代表的な行動の1つに「後追い」があります。常に特定の家族の後を追って歩き、昼寝をするときも相手の姿が見える場所で眠ります。留守番は苦手で、帰宅すると家族は愛犬のあまりの感激ぶりに驚くほどです。愛犬からの大きな愛情が感じられる幸せな瞬間でもありますね。
しかし見方を変えると、愛犬は24時間心を休めることができず、常に特定の相手の行動に注意を払っているともいえます。
ヘソ天でイビキをかいて眠ることも、夢中になってオモチャで遊ぶこともなく、家族と離れてしまわないように常に緊張感を保ち続けているのです。緊張は夜の就寝中も途切れることがなく、熟睡することもできません。
本来であれば、犬にとって自宅や自分のベッドは安全領域です。ヘソ天で熟睡しても危険な目に合うこともなく、朝になれば大好きな家族と過ごす1日が始まります。不安を感じる必要性はどこにもないはずです。
それにもかかわらず愛犬が分離不安特有の行動を見せるということは、愛犬は自分では解決できない理由から心の中でパニックが起こし続け、常にSOSのサインを発している状態だといえます。
留守番中のイタズラもトイレの失敗も原因は同じ
普段はとても聞き分けがよく、大人しいにもかかわらず、留守番中にイタズラやトイレの失敗を繰り返してしまう、留守番中に犬が吠えていると近隣から指摘され、愛犬の豹変ぶりに驚いたという経験がある方もいるのではないでしょうか?
このような行動も分離不安と大きく関係しています。
留守番中の愛犬は、頼るべき相手が自分の近くにいないことで精神的なパニックに陥ります。その結果、些細な物音にも過敏に反応してしまいます。
普段であれば気にも留めない騒音が、ひとりきりで過ごす部屋の中では各段に大きく聞こえ、正体不明の敵に怯え、身を守ろう、危険を知らせようと考え、全力で鳴き続けてしまいます。
トイレの失敗を繰り返す原因も同様です。無防備状態にならざるをえないトイレは、不安な精神状態にある愛犬にとって辛い瞬間です。
あえて普段よりも少量、複数回、いつもと違う場所でトイレをすることで、自分の居場所をごまかしたり、想像上の敵から身を隠そうと考えています。
決められた場所でトイレを安心して済ませることができない以上、愛犬にとっては仕方ない判断だといえます。
もちろん愛犬自身も失敗には気がついているので、ますます精神的なパニックは大きくなります。
留守番中のイタズラは決して悪意のある行動ではなく、さみしさやストレス、退屈、分離不安など色々な理由があることを知っておいてあげましょう。
※犬のストレスサインについて詳しく解説した記事はこちら
分離不安解消のカギは「安心」「安全」
分離不安は多くの犬が抱えるお悩みの1つで、しつけや厳しい訓練、無視をするといったシンプルな方法で解消できるものではありません。
愛犬のはりつめた緊張を軽減するためには、時間をかけて以下2点を理解させることが大切です。
- 安心・安全な環境で暮らすことができていること
- 家族と物理的な距離が生じても不安視する必要はないこと
そのためには、愛犬の気持ちを理解し、無暗に叱らず、焦らずに生活環境を見直してゆくことが大切です。
1歳を過ぎた今、Elmo君の成長のチャンス!
Elmo君はこれまでに幼稚園に通ったり、家族が生活スタイルを工夫したりと気持ちを落ち着かせ、精神的な成長を遂げるお手伝いを重ねてきたものの、まだまだ甘えん坊気質が色濃く感じられます。
プードル特有の知能の高さ、観察眼の鋭さも相まって常に家族の行動や居場所に意識が向いてしまうのは仕方のないことですが、いつまでもこの甘えん坊気質で泣き虫なままではないのでご安心ください。
犬は1歳を過ぎると、急速に精神的な成長を遂げる時期が訪れます。これは将来、自分が親になったり、群れのリーダーとしての役割を果たすために自立をしなければと気がつくからです。このタイミングを上手に活用し、Elmo君に、家族が望む生活スタイルを身に着けてもらいましょう。
具体的な方法としては、以下3点などがあります。
- ドッグランや幼稚園など他犬と交流する機会を、これからも定期的に作り続ける
- 夜は毎日一緒に寝るぬいぐるみやタオルなどを決め、一緒にクレートに入れる
- 家族が在宅している間も知育玩具などを利用し、家族以外の物に夢中になれる時間を作る
このような方法で、犬の精神面での成長に見合った刺激や情報を与え続けてゆきましょう。犬は生後1年というわずかな期間で体の成長だけでなく、精神的にも急速な成長を遂げます。いつまでも赤ちゃんの頃と同じ遊び、同じ時間の過ごし方では退屈してしまいます。
日ごろからドッグランなどで他犬と遊ぶ機会があると、他犬の行動や人間との接し方を観察し、自分自身も年齢相応の過ごし方や接し方をすべきだと学ぶことができます。家族以外と遊ぶこと、過ごすことも楽しいと感じることができ、次第に親離れが進みます。
不安を感じがちな夜も毎日一緒に眠るぬいぐるみなどを決めてあげると、いつも同じものが傍にあることで精神的な安定を感じられます。
家族が大好きなうえに、物事の覚えが早いプードルのElmo君だからこそ、年齢に見合った情報を与えたり、経験をさせることがお悩み解決につながります。
分離不安から起こる行動に、ある日突然劇的な変化が起こることはありませんが、少しずつ自立に向かってゆくことは間違いないので、家族はゆっくりと見守ってゆきましょう。
ただし今後、Elmo君が
- 足先を執拗に舐める
- 自分の被毛を引き抜いてしまう
- 体を血がにじむまで噛んでしまう
など、これまでになかった行動を見せる時は、何か大きなストレスやお悩みを抱えているサインです。
こんなときは自立を急かし過ぎず、傷などはさらに悪化しないよう動物病院へ相談をしましょう。
困った時は獣医師との情報共有も効果的
さみしがり、甘えん坊といわれる分離不安特有の性格は、時には愛犬に過度なストレスになってしまう場合もあります。
入院やペットホテルでのお泊り、車や飛行機での長時間の移動など家族と離れることで愛犬が精神的に不安的になるのではと不安を感じる場合は、あらかじめ獣医師に相談をして、愛犬の負担を軽減する方法を準備しておきましょう。
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