近年、ドッグフードを選ぶ際のひとつの基準となっている「グレインフリー」。あなたはどんなイメージをもっていますか?
「穀物も犬にとっては大切な栄養源。原材料だけでドッグフードの良し悪しを判断すべきではありません」と話すのは、獣医師の門田先生。今回は、犬にとって穀物は安全な食材か。そもそも健康的なドッグフードとは何か門田先生に聞きました。
犬は「穀物を消化できない」は間違い!
「グレインフリー」フードとは、穀物を使っていないフードです。従来、ドライドッグフードでは、小麦やとうもろこしなどのイネ科の穀物が使われていることが一般的でした。
しかし近年、ドッグフードを安価で作るために、かさましで入っているという悪いイメージが付いています。食物アレルギーの心配から、穀物不使用のフードのほうがいいのでは? 犬は肉食だから、穀物は胃腸に負担をかけるのでは? という発想で、穀物抜きのフード「グレインフード」が注目されるように。では、本当にグレインフリーのフードのほうが、犬にとって健康的なのでしょうか。
犬は、狼を祖先に持つということで肉食動物と思われがちですが、実は、肉食に近い雑食です。狼から犬に進化していく過程で穀物への適応率が上がり、人間ほどではありませんが、穀物などの炭水化物も消化できるようになりました。
もちろん生のままの穀物は体に負担がかかりますが、加熱などの処理がされたものなら、与えてもまったく問題ありません。つまり穀物は、犬が食べてはいけない食材ではないのです。
グレインフリーのドッグフードと穀物使用ドッグフードとの違い
穀物使用のドッグフードの特徴「栄養バランスをきめ細かく整えられる」
犬が小麦やトウモロコシなどの穀物から炭水化物をとることには、実は、メリットがあります。それは、食事の栄養バランスを整えやすいということ。
穀物は、ビタミンB群、マグネシウム、亜鉛などのビタミン、ミネラルも豊富に含んでいるうえに、使う穀物(トウモロコシ、小麦、大麦、玄米など)や部位(小麦麦芽、小麦ふすまなど)によって含まれる栄養素が異なる利点があります。
また穀物には、食物繊維が豊富で血糖値の急激な上昇を抑える働きも。いずれも、適切な量であれば、食事の栄養バランスをきめ細かく整え、犬を健康に導く食事に適した食材といえるでしょう。
グレインフリーのドッグフードの特徴「穀物アレルギーへの対応ができる」
グレインフリーフードは、穀物アレルギーを持つ犬におすすめです。犬の食物アレルギーは、季節に関係なく、特定のものを食べたあとに、皮膚のかゆみ、脱毛、嘔吐、下痢などの症状が出ることで疑われます。
ただ、犬の場合は、診断が難しく、どの食材によってアレルギーを起こしているのかを特定するのは難しいものです。
小麦・トウモロコシなど穀物の食物アレルギーがあると診断された場合は、穀物使用のフードは避ける必要があります。しかし、小麦やトウモロコシは犬にとって大事な栄養源。
アレルギーでない場合にむやみに避けると栄養バランスを崩したり、食べなれないフードでかえって体調を崩すこともあるので注意しましょう。
グレインフリーは、穀物の代わりにいも類や豆類が使用されている
市販のグレインフリーフードは、栄養バランスを整えるために、穀物の代わりにいも類や豆類といった炭水化物を使用しているのが一般的です。いも類、豆類も、穀物と同様、加熱したものなら胃腸に負担がかかることはありません。
また、いも類は比較的食物アレルギーを起こしにくいといわれています。そのため、穀物の食物アレルギーが考えられる場合は、医師からいも類を使ったフードを勧められることもあります。
使用されている食材だけでフードの良し悪しは判断できない
ドッグフードを選ぶ際は、各フードの特徴だけでなく、ドッグフード全体の栄養バランスも必ず確認しましょう。
たとえば、栄養面が優れた穀物も、大量に摂取すれば、犬の身体に負荷がかかります。また、グレインフリーフードも、肉類や卵、乳製品などの動物性タンパク食だけで同じカロリーの食事をまかなおうとすれば、タンパク質や脂質の量が多く、食物繊維がほとんどなくなってしまいます。
食材の有無だけで、そのフードの良し悪しを判断することはできません。穀物が入っている場合は、どのような目的で、どれくらいの穀物が入っているのか。グレインフリーの場合は、穀物で摂取する栄養分を何で補っているのかを確認しましょう。
グレインフリーフードは拡張型心筋症を悪化させる?
最近の研究では、心臓の病気とグレインフリーフードの関連性が注目されています。2018年のグレインフリーフードを食べた犬とそうでない犬たちを調査した研究*1において、特定のグレインフリーフードを食べている犬の方がグレインを含むフードを食べている犬よりも心臓の状態が悪いという結果が見つかりました。
また、他の研究でも拡張型心筋症のゴールデンレトリバー24匹全てがグレインフリーフードを食べており、血液中のタウリンが低下していたとの報告があります*2。
さらに、別の研究では、大麦、米、コーン、豆の複合炭水化物の給餌が心血管系の健康と、高血糖に伴う酸化ストレスへの保護効果を示す可能性がある*3とされており、これらの報告から、グレインフリーフードによってタウリンが不足し、拡張型心筋症を悪化させる可能性が考えられています。
「体にいい」といわれるとつい新しいものに目が行きがち。けれども、フードの特徴を理解し、栄養バランスを確認した上で、うちの子にはどんなフードを選ぶべきか考えることが大切ですね。
参考文献
1.Adin D(2018)Echocardiographic phenotype of canine dilated cardiomyopathy differs based on diet type.
2.Joanna L. Kaplan(2018)Taurine deficiency and dilated cardiomyopathy in golden retrievers fed commercial diets
3. Adolphe, J.L.(2012) Postprandial impairment of flow-mediated dilation and elevated methylglyoxal after simple but not complex carbohydrate consumption in dogs.