世界の3歳以上の犬・猫の80%以上は歯周病に罹患しているといわれており、この数値の高さから、歯周病はあらゆる疾患の中で最も罹患率が高いともいわれています。悪化してしまうと全身の疾患につながったり、治療に大規模な手術が必要になったりすることもある病気のため、早期発見が重要です。この記事では、クロス動物医療センター伊藤獣医師監修のもと、歯周病について解説していきます。
※引用元:日本獣医師会 会報 http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05805/06_5.htm
麻布大学獣医学科卒業。2019年獣医師免許取得。日本獣医皮膚科学会 、獣医アトピーアレルギー学会所属。ラーメン巡り、ドラムが趣味。モットーは「生きているということは 誰かに借りをつくること。生きていくということは その借りを返してゆくこと」
歯肉炎や歯周炎など、プラーク(歯垢)中の細菌とその代謝物によって歯を支える組織に炎症が起きる疾患の総称を、歯周病といいます。
- 歯肉炎
歯に付着したプラークが原因となり、歯肉が炎症している状態の疾患をいいます。部分的に歯肉が赤くなったり、全体が腫れたりします。
- 歯周炎
病巣の範囲が歯肉までの歯肉炎に対して、歯をささえている歯周組織(歯肉・歯根膜、歯の周囲にある靭帯・セメント質・歯槽骨:しそうこつ、歯を支える骨)にまで炎症が及び、破壊されてしまっている状態を歯周炎といいます。歯周炎を引き起こすまでのステップは以下の通りです。
歯と歯肉の間にプラークが入り込み、細菌が増殖する。
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歯肉の歯を固定する力が弱まり、歯と歯肉の間の隙間が広がる。
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歯周ポケットができる。
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歯周ポケットに細菌が入り込み、増殖する。
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歯を支える歯周組織が破壊される。
歯肉炎の段階で症状を発見し、治療を施せばもとの健康な歯と歯肉の状態に戻せますが、歯周炎まで症状が進行してしまうと、元の健康な状態に戻すことはできないのが現実です。普段から愛犬の歯の状態をチェックし、早期発見につとめましょう。
歯周病の症状は?
歯周病が引き起こす症状としては、以下が挙げられます。
- 歯のぐらつきや歯肉の腫れ
- 口臭
- よだれの量の増加
- 歯石による汚れ
- 鼻炎
犬歯の歯根は鼻腔付近まで達しているため、歯周病が重度になると炎症が鼻腔に影響し、鼻炎の原因となります。鼻炎が一般的な治療で改善されない場合、歯周病が原因となっていることがあります。
悪化してしまうと、口内だけでなく、以下に挙げるようなより重度な疾患や、全身に影響を及ぼす疾患につながります。
- 根尖膿瘍(こんせんのうよう)
歯の根元に炎症が起き、膿が溜まった状態をさします。例えば、上顎の第4前臼歯(一番大きな奥歯)の歯周病が進行し、歯根部分が感染を起こすと眼の下辺りが膿みます。軽度の腫れのこともありますし、大きく膨らんだり、皮膚に穴が開いて膿が出てくることもあります。目やになどの症状があわられることもあります。
- 下顎骨の骨折
歯周組織に炎症が起こると、歯周病菌により顎の骨が融解されていきます。融解されると、骨の強度が弱まり、特に下顎では歯周病に由来する骨折を生じることがあります。口が開きづらい様子や、顎が左右非対称である、食べるたびに痛みを訴える、などの場合は顎に影響が生じている可能性があります。
- 口鼻瘻管(こうびろうかん)
口と鼻が繋がる疾患です。犬歯など、鼻の近くの歯で歯周病が進行すると、細菌感染が鼻に広がり、口腔と鼻腔の間の骨が溶解され、繋がってしまうことがあります。結果として、くしゃみや鼻汁といった症状があらわれます。
- 心臓病、腎臓病、肝臓病など
細菌や、細菌が生成する毒素などが炎症部位の粘膜から血管に入り込み、心臓病や腎臓病、肝臓病の引き金になることもあります。
歯周病の治療方法は?
軽度であればプラーク・歯石の除去や薬の処方、重度であれば抜歯、歯茎の切除や歯の研磨で治療します。麻酔を使用した手術は犬にとって大きな負担となりますので、歯周病は早期発見と予防が大切です。1日1回の歯磨きでケアしてげることが理想的ではありますが、歯磨きを嫌がる犬は少なくないため、できる範囲でケアしてあげてください。まったく歯磨きをさせてくれない犬には、歯垢落とし補助のため、歯磨きガムや歯をケアできるサプリメントを与えてみてください。ワクチンなどで動物病院に行った際に、愛犬の歯並び、歯と歯肉の状態をチェックしてもらうのも、家族では気づきにくい歯周病の早期発見につながりますのでオススメです。